普通用
5500系 電車
1.はじめに
1995年1月17日に発生した阪神大震災は、阪神電鉄にも甚大な被害を与えた。車両関係の損害も大きく、石屋川車庫の崩壊などもあって、41両もの廃車が発生し、このうち8両は普通車であった。
5500系は元々、5151形など(新)5001形以前の普通系車両の代替として計画されていたが、震災により予定を繰り上げて建造を急ぎ、1995年11月にデビューした。
阪神電鉄の普通車は、高加速・高減速を誇るオールM車編成で、その個性的な車両性能から「ジェット・カー」という愛称で呼ばれている。
本車両は、普通車としては14年振りの新形式であり、従来からの俊足に加え、お年寄りや身体の不自由な方にもやさしく、コストパフォーマンスの高い、今後の標準車両とすることを目指して設計された。
この車両は、外部色を36年振り変更したことが最大の特徴である。従来の普通車の青色系のツートンカラーを受け継ぎながら、震災を乗り越えて新しく出発するという願いが込められ、全く新しいカラーリングが採用された。
上部の”少し彩度を落として落ち着きを持たせた明るい青色”は、「アレグロブルー」と名付けられた。アレグロとは、「速く、快活に」という意味であり、震災の悲しみを乗り越えて元気でありたいという想いをこの音楽用語に託している。下部の”淡くやわらかい感触の灰色”は「シルキーグレー」と名付けられた。
当時、普通車の運用は4両固定化が完了しており、この車両は4両固定編成を前提に設計された。編成中にはジェット・カーとしては初の中間車が組み込まれている。
第1次車が1995年11月1日にデビューしたのち、第2次車も1996年1月に営業運転を開始し、不足車両8両を補った。
その後、1998年のダイヤ改正にて直通特急の運行開始と、それに伴いダイヤが12分間隔から10分間隔に変更されることから、普通用車両が不足・急行用車両に余剰が発生するするために、第3次車~第5次車が1997年に製造された。
第1・2次車は武庫川車両工業にて製造されたが、この3編成は川崎重工業で製造され、客扉の複層ガラスや貫通路の拡大などの9000系に準じた仕様変更と転落防止幌が採用され、その他にも製造メーカの違いによる小さな仕様違いが見られる。
この代替廃車は3000系3101F~3104Fであり、奇しくも赤胴車を青胴車が追い出し、川崎製車両が川崎製車両を追い出した。
続いて、1998年から2000年にかけて第9次車(5517F)まで増備され、5311形(5311-5312)・5261形や7801形を置き換えた。9編成36両は、ジェットカーの中では最大勢力である。
2010年には同系列の車両として5550系1編成がアルナ車両にて製造され、実質的に5311形(5313-5314)及び5131形(5143-5144)の4両を置き換えた。
これにより本系列の当初の目的であった旧型車両の置き換えが完了したことになるが、1995年の阪神大震災から実に15年を経て達成した。
前述の改良のうち、第1・2次車と3次車以降を境に趣味的な呼び分けがされており、5501F・5503Fを前期型、5505F~を後期型と呼び分けることがある。
この5500系電車は「ニュー・ジェットカー」と愛称され、運用範囲は梅田~須磨浦公園間とされているが、過去の営業列車としては東須磨まで、2018年時点のダイヤでは梅田~新開地間にて運用されている。
2017年には本系列がデビューより20年以上経過しているため、内外装の大規模更新を行い「リノベーション車両」として再出発を始めた。この更新工事は接客設備としては5700系に準じた内容で施工され、外装では大きく塗色を変更し、車体上側大部分を「ラピスブルー」、下側裾部及び側扉部を「モダングレー」という新塗色が採用された。今後も年間2編成・8両程度のペースで、5550系を除く9編成に順次施工される予定である。
2.設計上の特徴
(1) 阪神電車の顔として定着した8000系のイメージを残しながら、より現代的でシンプルなスタイルとした。
(2) 制御装置・主電動機では誘導電動機・VVVFインバータ制御を採用し、大幅な保守の低減を図ると共に、ジャークを細かく制御することにより、大幅な乗り心地の改善を達成した。
(3) 台車にはモノリンク式ボルスタレス台車を採用し、軽量化と曲線通過性能の向上を実現した。
(4) 加減速度は従来の4.5km/h/s・5.0km/h/sより0.5km/h/sずつ落とした4.0km/h/s・4.5km/h/sとし、中・高速域の加速性能を向上することにより、従来と同じ駅間運転時分を維持した。
その他、ユニットブレーキやTD継手、交流電動機を用いたコンプレッサーの採用など、全面的な仕様の見直しが行われた。
3.運用開始以降の変遷
1995,11,01運用開始
2005年頃 シートモケットを順次交換(9300系の色違い、小枝模様のものに交換)
2006年頃 転落防止幌未設置の車両への取り付け・廻り子式連結器への換装(2008年頃完了)
2008年頃 デッドマン装置の取り付け
2013年 LED前照灯への交換を順次開始。5505Fはコイト電工製を搭載するも、後に森尾電機製に取り換え。
この他、非公式ではあるが2000年前後よりアレグロブルーの塗色が改良され、色味が濃く、より対候性の良いものが採用されたようである。
また、2017年よりリノベーション工事が行われ、順次施工される予定となっている。
4.主要諸元
形式 | 5501形 (Mc) | 5601形 (M) |
車種 | 電動客車 | 電動客車 |
自重 | 34.0t | 35.0t |
定員 ₍座席) | 122人 (48人) | 132人 (50人) |
最大寸法 ₍長×巾×高₎ | 18,980mm × 2,800mm × 4,060mm | 18,880mm × 2,800mm × 4,160mm |
台車 | SS144 | |
モノリンク式ボルスタレス・片押式踏面ブレーキ・軸距 2,100mm・車輪径860mm | ||
– | ||
駆動装置 | TD平行カルダン駆動式 ₍歯車比 99:14₎ | |
主電動機 | TDK-6145-A | |
誘導電動機・定格 110kW ₍AC1100V) | ||
制御装置 | – | MAP-118-15V55 |
VVVFインバータ制御 | ||
GTO素子・1C8M | ||
ブレーキ装置 | 電気指令式電磁直通空気ブレーキ式(MBSA形) | |
直通予備ブレーキ付・応荷重付(150%)・電空併用 | ||
性能 | 最高運転速度 110km/h | |
加速度 4.0km/h/s 減速度常用最大 4.5km/h/s 非常 4.5km/h/s | ||
集電装置 | – | PT4802-B-M ×1機 |
補助電源装置 | INVO94-HO | – |
空気圧縮機 | C-2000-ML | – |
ただし、5500系登場時 |
5.編成
4両編成10本が現存する。
5500系の基本編成はMc-Mの2両ユニットとし、これを2つ連結した4両固定編成として使用されている。
神戸方2両の車体は大阪方2両を反転したものであるが、床下の艤装は反転せず同一の向きである。
5550系はMc-M1とM2-Tcの2両ユニットを連結した4両固定編成である。
5500系 | |||
5501 | 5601 | 5602 | 5502 |
※リノベーション車両についても、組成は変わらない |
5550系 | |||
5551 | 5651 | 5652 | 5562 |
6.ギャラリー
[主な出典] R&m(96/02) 阪神電鉄 5500系普通車両の概要、’96 阪神電車時刻表ほか
※開発にあたっての時代背景や設計方針を各車両毎に正しくお伝えするため、出典資料の内容を大幅に引用させて頂いています
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