急行用
8000系 電車
1.はじめに
阪神電鉄の車両は、高速性能に重点を置いた急行系と、高加減速で「ジェット・カー」と愛称される普通系の2グループに分けられる。このうち、急行系車両は昭和33年の3501形車両を基本に、改良が重ねられながら増備されてきた。
本車両の新造が計画されるにあたり、3501形車両の新造から25年が経過していたことや、昭和60年には創業80年を迎えることなどからモデルチェンジが行われた。
右写真:タイプⅡ/第2次車(8211-8212)・住吉駅 photo by 鷲羽
8000系1次車は昭和58年度車として6両1編成が製作され、先行試作を兼ね最新の車両技術を採用して、省エネルギ、省保守を図ったものであったが、車体の内外装は従来車両の設計を踏襲したものであった。
1997~1999年の客窓固定化については、上部のアルミ製窓縁がなくなったために、外観での識別が可能。
右写真:タイプⅣ/第13次車(8233-8033-8133)/大阪方3両ユニット落成時・芦屋駅 photo by 鷲羽
第2次車以降は、第1次車の使用実績などから見て、装置については不具合のないことがわかったために、同じ装置が採用されたが、車体関係のアコモデーションについては全面的な改良が行われ、都会的で斬新なものとなった。
この8000系電車はその後も随時改良を重ねながら増備が続けられ、大きな改良として第5次車で冷房装置に集約分散式・CU-198を採用し、それに伴い屋根を約50mm高くした車体断面の変更が行われた(従来の冷房装置は分散式、客室部:MAU-13H/乗務員室部:CU-10H)。第13次車では窓サイズの変更に伴った構体設計の変更や、バケットシートの採用・LED式車内案内表示装置の採用など内装の大幅な改良が行われ、第21次車まで増備された。
また、台車については製造期間中の変更に加え、3901形の廃車発生品も流用された。
・FS-090(T)[(8217)/8218/8219/8220]:S形ミンデン台車(現在はSU化済)・3901形廃車時に流用されたもの。台車形式標示は文字切抜溶接。
・FS-090A(T)/FS-390A(M)[(T)8502(8201)/(8202)・(M)(8001/8101)/8102/8002]:SU形ミンデン台車。FS-090/390より軸箱支持にU形ゴムパッドを追加し、柔支持としたもの。外見上の特徴としては側梁端部の延長・側梁-上部軸ばね座周りの組立体間のリブ形状の変更・台車形式標示が銘板ビス止めに変更された点が挙げられる。
・FS-025(T)/FS-525(M)[上記以外の8000系]:SU形ミンデン台車。8211Fより当台車が採用された。外見上はボルスタ・ボルスタアンカーの形状が変更された点が特徴で、これらは板材の形状から異なることが溶接痕からも見て取れる。この台車は、8233Fより仕様変更が加わり、ボルスタの溶接痕が目立つものとなった。FS-525(M車)は側梁両端部の形状が、FS-025(T車)はブレーキシリンダ側の端部形状が変更された(台車形式名に変更はない)
上記の大きな改良を境に趣味的な呼び分けがされており、8201FをタイプⅠ、8211F~をタイプⅡ、8217F~をタイプⅢ、8233F~をタイプⅣと4種類に大別している。
この8000系電車は全車が武庫川車両工業により製造され、600V時代の初期の急行用高性能電車を置き換えた。
当初、梅田~須磨浦公園間で運用されていたが、直通特急運行開始以降は阪神梅田~山陽姫路間でも運用に充当され、現在に至る。
8000系電車の設計や思想は、5500系をはじめとした現在の阪神電鉄の車両に改良を重ねながら受け継がれている。
※第1次車誕生のエピソードについてはこちら→[8000系余話・第1次車出生の経緯]
2.設計方針
この車両の設計にあたっては次の事項を重点に設計が行われ、諸装置に新しい車両技術を取り入れた。
(1) 従来の阪神電車のイメージを残しながら、都会的センスにあふれた現代的スタイルとする。
(2) 省電力化を積極的に進める。
(3) 機器の長寿命化と省保守化に努め、総合的な保守費の低減を図る。
(4) 新技術は積極的に取り入れて、しかも機器取扱いの簡素化を図る。
(5) 緊急時を除いて、在来車との連結は行わない。
性能面の特徴としては、この8000系では0A(ゼロアンペア)制御や電気指令式ブレーキといった技術が新しく採用された。
3.車体形式
各タイプ及び、タイプ分けグループ内での細かな差異は阪神8000系の編成毎の差異を参照。本項では構体および台車の設計変更について扱う。
外観
8101形電動客車 [M] | 8001形電動客車 [M’] | 8201形制御客車 [Tc] | ||
タイプⅠ (8201F) | 山側 | ![]() | ![]() | ![]() |
タイプⅡ (8211F~8215F) | 山側 | ![]() | ![]() | ![]() |
タイプⅢ (8217F~8231F) | 浜側 | ![]() | ![]() | ![]() |
タイプⅣ (8233F~8249F) | 浜側 | ![]() | ![]() | ![]() |
妻面 | 8101形 | 8001形 | 8201形 | ||
タイプⅠ (8201F) | ![]() | ![]() | |||
タイプⅡ (8211F~8215F) | ![]() | ![]() | ![]() | ![]() | ![]() |
タイプⅢ (8217F~8231F) | ![]() | ![]() | ![]() | ![]() | ![]() |
タイプⅣ (8233F~8249F) | ![]() | ![]() | ![]() |
台車
8000系の台車はタイプⅠはFS390AおよびFS090A、タイプⅡ以降ではFS525およびFS025が用いられている。例外的に、8217,8218,8219,8229のみ3901形より流用されたFS090が用いられている。また、タイプⅣのFS025,FS525では側梁端部形状やボルスタまわりの溶接痕など、細部に違いがみられる。
FS-390A / 8000系用として8201Fに採用された。
FS-525 / 8211Fからは、流用された台車を除きこの台車が採用された。
FS-025 / T台車とM台車で形式名が異なるが、同じグループの台車は単純な見かけ上の形状はほぼ同じである。
4.運用開始以降の変遷
1995,01,17の阪神大震災により被災、代車新造を伴う編成の組み換えを行った。
1995~1996年にかけて、電気笛が装備された。
1997~1999年にかけて、運転室直後の客窓の固定化、戸閉機の変更工事が行われた。客窓の固定化については、上部のアルミ製窓縁がなくなっているために、外観上の識別が可能である。(上に掲載の’タイプⅣ/第13次車(8233-8033-8133)’には窓縁が存在する)
1998,02,15に山陽姫路-阪神梅田間で直通特急の運転が始まり、本形式も第1次車を除き直通特急の主力車両として活躍している。これに伴い、ATS関係の更新・連結器アダプタ/アダプタ箱の装備・ドアカットスイッチ(大塩駅6号車)が新設された。
2002年よりリニューアル工事が行われ、中間車にセミクロスシート車が登場したほか、車体色が9300系と同色のプレストオレンジ/シルキーベージュに変更された。このリニューアル工事は全車両が対象となり、2015年に完了した。


1997~1999年の客窓固定化については、上部のアルミ製窓縁がなくなったために、外観での識別が可能。左が固定化前、右が固定化後(2006年)
5.主要諸元
形式 | 8201形 (Tc) | 8001形 (M’) | 8101形 (M) |
車種 | 制御客車 | 電動客車 | 電動客車 |
自重 | 28t | 34t | 34.5t |
定員 ₍座席) | 140人 (48人) | 150人 (52人) | 150人 (52人) |
最大寸法 ₍長×巾×高₎ | 18,980mm × 2,800mm × 4,087mm | 18,880mm × 2,800mm × 4,109mm | 18,880mm × 2,800mm × 4,109mm |
台車 | FS-025 | FS-525 | FS-525 |
空気ばね(ダイレクトマウント) | 空気ばね(ダイレクトマウント) | 空気ばね(ダイレクトマウント) | |
S形ミンデン式 | S形ミンデン式 | S形ミンデン式 | |
片押式踏面ブレーキ | 片押式踏面ブレーキ | 片押式踏面ブレーキ | |
軸距 | 2,100mm | 2,100mm | 2,100mm |
駆動装置 | 中空軸平行カルダン駆動式 ₍歯車比 81:14₎ | 中空軸平行カルダン駆動式 ₍歯車比 81:14₎ | |
主電動機 | TDK-8170-A | TDK-8170-A | |
直流複巻補極保障巻線付電動機・定格 110kW ₍340V・365A・1,850rpm) | 直流複巻補極保障巻線付電動機・定格 110kW ₍340V・365A・1,850rpm) | ||
制御装置 | BS-1403-A | ||
主電動機8個・総括制御方式・電動機操作カム軸式 | |||
抑速・回生ブレーキ付・GTOサイリスタ式界磁チョッパ | |||
ブレーキ装置 | 電気指令式電磁直通空気ブレーキ式(MBSA形) | 電気指令式電磁直通空気ブレーキ式(MBSA形) | 電気指令式電磁直通空気ブレーキ式(MBSA形) |
直通予備ブレーキ付・応荷重付(150%)・抑速・回生ブレーキ付 | 直通予備ブレーキ付・応荷重付(150%)・抑速・回生ブレーキ付 | 直通予備ブレーキ付・応荷重付(150%)・抑速・回生ブレーキ付 | |
性能 | 最高運転速度 110km/h | 最高運転速度 110km/h | 最高運転速度 110km/h |
加速度 2.5km/h/s 減速度常用最大 4.0km/h/s 非常 4.3km/h/s | 加速度 2.5km/h/s 減速度常用最大 4.0km/h/s 非常 4.3km/h/s | 加速度 2.5km/h/s 減速度常用最大 4.0km/h/s 非常 4.3km/h/s | |
集電装置 | PT4802-A-M ×1機 | PT4802-A-M ×1機 | |
補助電源装置 | BS-483-F | ||
空気圧縮機 | C-2000-L | ||
直列3気筒 横型往復 2段圧縮 |
6.編成
6両編成19本が現存する。
基本編成はTc-M’-Mの3両固定編成とし、これを2編成連結した6両固定編成として使用されている。
神戸方3両の車体は大阪方3両を反転したものであるが、床下の艤装は反転せず同一の向きである。
これによって、空制装置を浜側、制御装置を山側とする阪神電鉄独自の設計様式を受け継いでいる。
製造に際し小改良が積み重ねられ、車体形状の変更も伴ったが、組成方法は同一である。
阪神大震災で15両が廃車となり、このうち3両分が8000系として代替新造された。
これらの車両については、原番号+300番が与えられた(ex.8223形→8523形・8036形→8336形)
被災編成については車体の外観が整うよう再編成されたが、やむなく3編成は混ぜこぜになった。
リニューアル工事では仕様実績に基づき何度かメニューが変更されたが、
その境目は車体構造で区別したタイプ分けとは一致せず、常に改良が重ねられ、バリエーションが更に豊かになった。
大きなメニュー変更としては、編成内のセミクロスシート車両の減少(4両→2両→0両・全車ロングシート)、盲導鈴・扉開閉予告灯の追加、種別行先幕・標識灯のLED化など。
代表的な編成と編成表は以下の通り。
8000系 | |||||
![]() |
|||||
TypeⅡ |
|||||
8211 | 8011 | 8111 | 8112 | 8012 | 8212 |
![]() |
|||||
TypeⅢ | |||||
(8217) | (8017) | 8117 | 8118 | 8018 | 8218 |
![]() |
|||||
TypeⅣ | |||||
8233 | 8033 | 8133 | 8134 | 8034 | 8234 |
![]() |
|||||
8213F (TypeⅡ+TypeⅢ) | |||||
8213 | 8013 | 8117 | 8118 | 8018 | 8218 |
![]() |
|||||
8221F (TypeⅡ+TypeⅢ) | |||||
8221 | 8021 | 8121 | 8122 | 8022 | 8214 |
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|||||
8523F (TypeⅠ+TypeⅡ・8523形は代替新造/8502形は8201形を方向転換の上改番) | |||||
8523 | 8023 | 8123 | 8102 | 8002 | 8502 |
全車リニューアル工事が完了している。リニューアル施工車も組成は同一である。 |
7.ギャラリー
- 8000系の第一編成は従来の阪神車のイメージを強く受け継いだスタイルで登場した
- タイプⅡでは車体形状が大きく見直された
- タイプⅢではクーラーが変更され、車体高が延長された
- 8231Fはリニューアルに際し、LED種別幕・標識灯が採用された
- タイプⅣでは連続窓が採用された
- 8000系のリニューアル工事は全編成で完了している
- これにより本線上の営業列車から赤胴車は姿を消した
- ぼくたちが眺め・憧れた阪神電車”らしさ”は記憶のみとなった
- リニューアル車ロングシート内装。当初紅色だったシートモケットはオレンジ色・小枝模様のものに張り替えられた
- リニューアル施工開始時は中間車4両がセミクロスシート化されたが、運用実績から後年は中間2両、全車ロングシート車と施工内容が変化した
- 第一編成は運転席周りでも在来車のイメージを受け継いだ
- 第二編成以降は運転席周りも一新され、最終編成まで基本設計は変更されなかった
[主な出典] 車両技術(85/10) 阪神電気鉄道 8000系電車、鉄道ファン(01/02)大手私鉄の多数派ガイド 阪神8000系、’96 阪神電車時刻表ほか
※開発にあたっての時代背景や設計方針を各車両毎に正しくお伝えするため、出典資料の内容を大幅に引用させて頂いています