1995年1月17日に発生した阪神大震災は、神戸を筆頭に甚大な被害を及ぼしました。そこからの復興の過程では、全線復旧や新造車の落成などの新しい話題が生まれましたが、直通特急の運行開始も震災を機に実現した新しい試みでした。
直通特急運行開始(1998年2月15日)から20年、早いものですねぇ(オッサン的感慨)。当時の写真を添えて、当時の思い出話などなど。
直特運行開始前夜
その「予兆」は、ダイヤ改正の約1年前(1997年3月)に登場した山陽5030系でした。7年ぶりの編成新造となったこの車両、山陽初のVVVFインバータ制御車であると共に、車内のクロスシートを2+1配置にしたのが最大の特徴です。これは、来たるべきラッシュアワーでの梅田乗り入れに備えて、立席スペースを確保することが目的の一つだったそうです。その後、他の5000系にも阪神の列選車上子が搭載されるなど、目に見えて相直開始の準備が進められました。
阪急六甲駅に乗り入れた山陽5030系5632-5633(1997年)
両社の車両が乗り入れ先に試験的に入線したのはダイヤ改正前年の夏。6月に阪神9000系が山陽姫路へ、次いで6、7月に山陽5000系が阪神梅田へ、いずれも深夜に乗り入れを果たします。
深夜の甲子園駅に現れた山陽5000系5022-5611(1997/6/30)
この時、各停車駅での車体とホームの離隔等が確認されたのですが、阪神線内では御影と梅田では所定の離隔が確保できないことが判明します。これは阪神と山陽いずれも車体のサイズはほぼ同じだったものの、台車オーバーハングが山陽の方が長かったため、曲線部で車端部分の偏寄が大きいことが原因でした。そのため、御影では入線番線を変更(2番線>1番線)し、梅田では乗降部分にかからないホームの一部を削る工事が行われました。また山陽側でも、ドアカット対象駅を減らすため従来2両ドアカットだった飾磨駅のホームを延伸して6両停車を可能とした他、東二見工場でも検修設備等の6連対応工事が行われました。
阪神8000系と山陽5030系の寸法比較:車体の大きさはほぼ同じだが台車オーバーハングはかなり異なる。
夜間に引き続き同7月には白昼の試運転も行われ、いよいよマニアのみならず一般客の注目も集めるようになります。年が明けると、乗り入れに使用される阪神8000系、9000系、山陽5000系、5030系を使用した訓練が始まりました。
飾磨の急カーブを通過する阪神8000系8247-8248の試運転列車。行先には「甲子園」の表示が(1997/7/16)
梅田地下線に乗り入れる山陽5030系5630-5631の試運転列車(1997/7/30)
1998年2月ダイヤ改正
運行開始した当初の直通特急はデータイム30ヘッドの運転間隔でした。阪神側10分ヘッド、山陽が15分ヘッドですから、その最小公倍数という訳です。なおラッシュ時は12~13.5分ヘッドでほぼ全ての特急が直通特急になりましたが、朝ラッシュの混雑する時間帯はセミクロスシート車が忌避されたため、ロングシートの阪神車が集中的に運行されました。そのため、東二見に2編成、姫路と飾磨にそれぞれ1編成の阪神車が夜間滞泊するようになりました。
直通特急の梅田行きには「大阪ライナー」、姫路行きには「姫路ライナー」という「直球勝負」な愛称が付けられ、副標も掲げられました。ちなみに副標のデザインは「大阪…」が青地に水都大阪をイメージした水の流れ、「姫路…」は姫路城をイメージした鷺のシルエットをデザイン。また甲子園球場でのプロ野球開催時には、黄色地に虎マークのタイガースバージョンになりました。
ダイヤ改正当日、山陽明石で顔を揃えた阪神・山陽の祝賀号(1998/2/15)
タイガース・バージョンの直特副標を掲げた9000系9205-9206(2003/7/21)
直通特急の運行開始により、阪神、山陽共に特急列車の車両運用が効率化され、車両数に余裕が生まれます。一方、阪神では従来の12分ヘッドダイヤを10分ヘッドに短縮したため、普通用ジェットカーの運用に余裕がなくなりました。このため、余剰となる赤胴3000系6連×2編成の代替として5500系4連×3編成が増備されることとなり、車両総数に変化はないものの、赤胴/青胴の構成比が変わりました。
運用最終日の3000系3102-3201と3103-3204(1998/2/13)
赤胴車の代替として1998年度に5500系5511~5516の3編成を増備(1998/4/19)
その後の直通特急
運行開始後の大きな変化として挙げられるのは、2001年3月のダイヤ改正です。この時、データイムの運行本数が1時間あたり4本と倍増し、停車駅のパターンによって種別幕の地色を変えた「赤直」「黄直」と呼ばれる2種類の直通特急が運行されるようになりました。停車駅が増え、特に三宮~板宿間が各駅停車となる黄直は、いささか鈍足の感が否めませんが、概ねそのまま現在に至っています。
また、阪神線内でもセミクロスシート車の運用に大きな支障がないことが実証されたため、サービスアップの一環として、阪神電鉄でも3011形以来絶えて久しかったセミクロスシート車9300系が登場しています。更に8000系のリニューアルに際しても、初期に改造された編成には9300系同様のセミクロスシートが採用されています。