鉄道橋梁の形式のひとつに、トラフガーダー(槽状桁/そうじょうけた)があります。他の鉄道線路や道路との交差部など、桁下クリアランスを最大限に確保したい場所には最適な形式ですが、半面、経済スパンが10m以下とされるため、河川など長径間が必要な場所には適しません。特殊な設置条件で使用される少数派の橋梁形式と申せましょう。しかし昨今の鉄道工事では、騒音防止の観点からも閉床タイプ(=道床付)の鋼桁やプレキャストPC桁等を多用した余裕のある設計事例が多くなり、桁下空頭カツカツの設計条件でこそ威力を発揮するトラフガーダーの採用事例は少なくなっているようです。
ところが先般竣功した甲子園駅改良工事において、新たにトラフガーダーが設置されていることを知りまして(snowlavitさんの甲子園駅改良の工事記録参照)、条件次第ではまだまだ長生きしてくれそうなこの橋梁について調べてみることにしました。
トラフガーダーの構造
線路と列車の重量を支える縦桁がI形鋼2本で構成され、その間の凹部に補剛材を介してレールが固定されるのが特徴です。英名の「トラフ(Trough)」や和名の「槽状(槽=桶)」もこの形状に由来します。レールも含めて縦桁の高さに収まるため、上路式や下路式の鋼板桁と比べ桁高を抑えることができます。
典型的なトラフガーダーの外観(堤添跨線橋)。左右レールの両側に縦桁の主材であるI形鋼が並行するのが特徴。古い桁で経済設計のためは縦桁の中央部に鋼板を重ねてリベット止めされているが、これは桁中央部にかかる力(応力)が大きくなるため。レール間のI形鋼同士はチャンネルで電光形に連結されている。
トラフガーダー(槽状桁)、上路式鋼板桁、下路式鋼板桁の断面((株)ブリッジエンジのウェブサイト所収の図を加工)。
レールを支えるトラフ部分を下から見上げる。枕木は無く、ゴムパッドを介してレールを固定
レールを取り付ける前のトラフガーダーの貴重な記録(枝川橋梁4番線:snowlavitさんの甲子園駅改良の工事記録より)
最新のトラフガーダー:枝川橋梁と小松西陸橋
甲子園駅改良に伴うホーム拡幅のため、枝川橋梁の1番線と4番線が2014年に上路鋼板複式桁からトラフガーダーに架け替えられました。また鳴尾連立に併せて武庫川連絡線の分岐部付近に新設される市道「鳴501号線(歩行者専用)」との交差部(小松西陸橋)にも、新しいトラフガーダーが設置されています(供用開始は2018年9月予定)。
枝川橋梁
トラフガーダーに変わった枝川橋梁の4番線。イマドキの橋梁らしくボルト類も少ないすっきりスマートな外観で、4径間のうち神戸側3径間がトラフガーダー、大阪側の1径間(旧甲子園線交差部)は上路I型桁である。
「槽状桁」の表記も見える枝川橋梁の管理プレート。支間長12.67mはトラフガーダーとしては長い
4番線の新設トラフガーダーの横には、旧4番線に使用されていた上路鋼板複式桁が残っているが、トラフガーダーよりも桁下が低くなっているのが分かる
小松西陸橋(※)
現在工事中の新設市道と、本線・武庫川連絡線が交差する小松西陸橋
9月の本供用に向けて工事中のため、まだ橋台も本設ではなさそう
複数の橋梁形式を使い分け:芦屋川橋梁
芦屋川とその左右岸にある市道と交差する芦屋川橋梁(支間59.51m)は、河川上空が3連の上路鋼板桁、市道上空がそれぞれ左岸が2連、右岸が1連のトラフガーダーで構成されています。これは、比較的長スパンを必要とする河川部には鋼板桁を使用し、桁下クリアランスが欲しい市道部にはトラフガーダーを使い分けているのです。
ホームから眺めた芦屋川橋梁。中央部の3径間は上路鋼板桁、手前2径間と奥の1径間はトラフガーダー
本線と武庫川線の交差部:堤添跨線橋
冒頭にもご紹介した、本線と武庫川線の交差部に架かる陸橋です。曲線上に設置されているため、各々浜側に傾斜して設置されています。
桁下面と架線が近接しているため、絶縁材が貼られ、碍子も並列で高さを抑えている
なんば線のトラフガーダー:大野川西陸橋・陸橋第6号
最大10両編成の電車が行き交うなんば線にも、大野川西陸橋(出来島~福・支間4.6m)と陸橋第6号(伝法~千鳥橋・支間6.02m)という二つのトラフガーダーが見られます。
大野川西陸橋
2010(平成8)年のなんば線延伸に際して新設された新しいトラフガーダー
歩行者専用通路をアンダーパスさせる際に、トラフガーダーを設置して空頭確保し、歩行者上下移動の負荷軽減を図っている
陸橋第6号
一方通行の狭い市道と交差する。防音壁と落下物防止のカバーが物々しい
盛り上がりに欠けるまま、後編へと続く…。
※(19.2.22追記)
小松西陸橋は高架工事の完成に伴いRCボックス型の地下道に切り替えられました。