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阪神5700系全編成側面写真資料集」 を更新しました。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

施設 By ぐんじょう

2020~2021年の冬の様子はこちら

まず初めに、淀川橋梁の架替え工事についての概要を説明します。概要の説明が不要な方は、上の ボタンを操作してください。

概要

阪神なんば線には、淀川を跨ぐ「新淀川橋梁」という橋梁があります。“新”の無い「淀川橋梁」として紹介されることの多い橋梁ですが、「新淀川橋梁」が正式名称です。本線にも淀川を跨ぐ橋があり、こちらは「淀川橋梁」といいます。どちらの橋梁も延長が長く、本線・淀川橋梁が778m、阪神なんば線“新”淀川橋梁は756mと阪神電車で1位2位の延長です。新淀川橋梁は1924年に伝法線として開業した大物~伝法の区間に含まれ、同線開業以来約100年に渡って列車の運行を支えてきましたが、架替え工事が現在進められています。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

新淀川橋梁が架替えられる理由は大きくわけて2つあります。1つ目の理由としては、新淀川橋梁は橋脚の本数が多く、桁下高も低いことです。洪水時には新淀川橋梁がその流れを阻害してしまう危険性が指摘されています。2つ目の理由としては、線路が堤防を途切れさせていることです。高潮時には、堤防の切り込みを塞ぐために「陸閘」を操作しますが、その操作が間に合わなければ堤防を途切れさせている線路の箇所から増水した淀川の水が氾濫する危険があります。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
赤く見えるのが「陸閘」
撮影:ぐんじょう

新淀川橋梁の架替えは国土交通省の河川事業として行われるもので、同時に前後の区間の高架化(連続立体交差化)も実施されます。尼崎方起点から新淀川橋梁にかけての区間の連続立体交差化は、国と市が共同して実施することから「共同事業区間」となり、相対して、新淀川橋梁の架替えについては「河川単独区間」となります。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

河川単独区間と共同事業区間は、合わせて出来島駅東方~正蓮寺川橋梁の2.4kmです。事業区間中には「福」駅と「伝法」駅が含まれ、いずれの駅も立体化に伴って駅舎が新しいものになります。新淀川橋梁は仮線方式や直上方式ではなく別線方式での架替えとなり、新たな新淀川橋梁は既設線の南側に架橋されます。また、すりつけ区間として淀川橋梁の前後では線形が変更され、その区間の延長は福駅方で1km、伝法駅方では0.5mになります。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

新しい淀川橋梁は、前述の2つの問題を解決するものになります。橋脚数は39基から10基に減り、新淀川橋梁の下流に位置する国道43号線・新伝法橋梁の「洪水時の流心線に沿った見通し線上」に橋脚が設置されます。これは、「河川管理施設等構造令施行規則(昭和五十一年建設省令第十三号)」に則るものです。また、桁下高は7mほど上がります。これによって陸閘を撤去できるほか、桁下高が計画高潮位を下回る問題も解決できます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
国土交通省淀川河川事務所(2020)「阪神なんば線淀川橋梁改築事業について」による図表を一部修正

(参考)検討段階の計画

淀川橋梁の架替えの計画は古くからあり、検討段階では千鳥橋駅以西の2.6kmを事業区間とする計画もありました。現在進められている「阪神なんば線淀川橋梁改築事業」では正蓮寺川橋梁(伝法~千鳥橋間)以西が事業区間となっています。

工事の流れ

阪神なんば線は、2009年の西九条~大阪難波間の延伸と近鉄との相互直通運転の開始にともなって西大阪線が名を改た路線です。西大阪線時代には列車本数が比較的少なかったため、一時的に列車を単線で運行しながら立体化工事や橋梁の架替えが行われていたこともあります。しかし、相互直通運転の開始後は一躍大動脈となり、今回の「淀川橋梁事業」では仮線を構築し複線の状態を保ちながら工事が進められます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

まず、工事のスケジュールを確認します。

仮上り線への切り替えの完了 2022年度
仮下り線への切り替えの完了 2023年度
下り線の高架化/新しい淀川橋梁(下り線)の供用開始 2026年度
上り線の高架化/新しい淀川橋梁(上り線)の供用開始 2029年度

次に、工区割と縦断図は下図のとおりです。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
出典:国土交通省淀川河川事務所(2020)「【阪神なんば線淀川橋梁改築事業】 - 令和2年度の主な作業内容-①」

新たな新淀川橋梁の前後ではすりつけ区間として線形が変わります。また、第1工区の取付区間では、縦断勾配が生じます(線路縦断線形がレベルではありません)。また、伝法駅では駅構内に縦断勾配があります。

事業総延長2.4kmは1~5工区と撤去工区に工区割されています。各工区ではどのように工事がなされるかを見ていきましょう。

1工区(尼崎方取付部~福駅西方)

1工区では、「仮線方式」で高架化が実施されます。立体化工事が進められている間は、現在線の北側に沿った敷地を活用し仮線路が敷設されます。仮線を活用することで、工事期間中も複線で列車の運行が続けられます。施工手順の関係により上り線と下り線は同時には高架化されず、下り線・上り線の順で順次高架化されます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
仮線を構築するための用地として活用される沿道では交通規制が行われる。
撮影:すのらび

尼崎駅から出来島駅以東までの区間はすでに立体化されています。現在進められている淀川橋梁改築事業に伴う工事によって取付区間に含まれる既設高架橋の一部が嵩上げされます。嵩上げされるのは、既設高架橋のうち東側から3径間です(Pc35,Pc36,Pc37)。なお、既設高架橋は嵩上げはされるものの、既設高架線と新設高架線との取付部には縦断勾配が生じます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
取付区間を眺める。高架化によって眺めは変貌するだろう。
撮影:すのらび
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
取付区間の擁壁盛土。工事により、当該箇所はラーメン高架橋となる予定。
撮影:すのらび

2工区(福駅部~淀川右岸)

2工区では、「仮線方式」で高架化が実施されます。立体化工事が進められている間は、現在線の北側に沿った敷地を活用し仮線路が敷設されます。仮線を活用することで、工事期間中も複線で列車の運行が続けられます。施工手順の関係により上り線と下り線は同時には高架化されず、下り線・上り線の順で順次高架化されます。

2工区には福駅が含まれます。また、2工区に含まれる「福駅西踏切」と「福駅東踏切」は高架化に伴って除却されます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
高架化で除却される「福駅西踏切
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
高架化で除却される「福駅東踏切

高架化後の福駅は現在と同様に2面2線であり、一部の鉄道ファンが期待する待避線の設置はありません。また、改札内で上下プラットホームを行き来できるようになります。エレベーターやエスカレーターが設置されます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
福駅
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
築堤

3工区(淀川右岸~河川中心)

3工区には新淀川橋梁の西側半分が含まれます。新しい新淀川橋梁は古い橋梁の南側に建設され、仮線方式ではなく別線方式での改築となります。3工区に含まれる「淀川西岸踏切」は淀川橋梁改築に伴って除却されます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
2019/11/16

4工区(河川中心~淀川左岸)

4工区には新淀川橋梁の東側半分が含まれます。新しい新淀川橋梁は古い橋梁の南側に建設され、仮線方式ではなく別線方式での改築となります。4工区に含まれる「淀川東岸踏切」は淀川橋梁改築に伴って除却されます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
撮影:ぐんじょう

5工区(伝法駅部~大阪難波方面取付部)

5工区では、1工区や2工区とは違って「別線方式」で施工されます。これは既設線の南側に複線分の高架橋が建設される方式で、仮線方式での施工が困難なためです。

5工区には伝法駅が含まれます。また、5工区に含まれる「正蓮寺川西岸踏切」は除却されます。すりつけ区間として、正蓮寺川から新たな淀川橋梁にかけての約500mの区間では線形が変更されます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

高架化後の伝法駅は現在と同様に2面2線になる予定です。エレベーターやエスカレーターが設置される予定です。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
現在の伝法駅。盛土上に設けられている(阪神なんば線の開業前に延伸されたプラットホームは桁式構造)。
撮影:ぐんじょう
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
撮影:ぐんじょう

工事中に安全な列車の運行を支える仕組み

営業線に近接して工事が行われるにあたっては、十分な安全対策が取られます。非常時に備えて列車防護のため「非常通報押ボタン」が等間隔に設置され、「工事用特殊信号発光器」が設置されます。また、「工区標」が工区の始終端に設置され工区が明示されます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
撮影:すのらび

令和2年・夏の様子

令和2年の5月中頃での工事の様子を各工区ごとに見ていきます。

1工区(出来島~福)

出来島駅から福駅の区間が含まれる1工区では、仮線構築工が本格的に始動する前段階の状態でした。列車防護柵が線路と工事箇所との間に設置されていました。重機類のブームの操作限界を示すためにトラロープが列車防護柵の上端部に取り付けられていることがわかります。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
撮影:すのらび
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

2工区(福駅~淀川橋梁右岸)

福駅から淀川橋梁右岸までの区間が含まれる2工区では、2022年度と2023年度に実施される予定の仮線路への切り替えに向けて「仮線構築工」が進んでいます。

限られた用地で列車の運行を継続しながら高架橋を築造するため、仮線の設置には北側の盛土法面が活用されます。最初に仮線路に切り替わるのは下り線で、この線路の切り替えによって捻出されたスペースに仮上り線が敷設されます。こうして上下線がともに仮線として北側に移設されることで捻出されたもとの軌道敷に本設構造物が築造されます。(計画下り線の供用開始後、仮下り線の線路敷を使って計画上り線の高架橋も建設される)

5月の時点では、仮線盛土の土留壁となる鋼矢板の圧入が進められていました。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

また、南側にも施工過程で必要となる鋼矢板の圧入が進められていました。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

3工区(淀川右岸~河川中心)

淀川右岸から河川中心の区間が含まれる3工区では、仮線構築工に加え新たな淀川橋梁の建設も始まっています。

仮線構築工

淀川橋梁については別線方式での工事のため、新しい淀川橋梁に線路が切替えられるまでは現在の橋梁が使い続けられます。現在の新淀川橋梁と仮線とでは軌道中心が異なるため、新淀川橋梁の西端部では桁が入れ替えられます。工事桁を支持するカンザシ桁はすでに架設されていました。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
手前に見えるのは仮桟橋。ここでは、塗装に艶があるのがカンザシ桁。
撮影:すのらび
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
仮設橋梁の工事桁
撮影:すのらび
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
カンザシ桁の様子。
撮影:すのらび
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
安定液作液プラントが奥に写っています。
撮影:すのらび

仮橋台の様子です。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
撮影:すのらび
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

仮陸閘の様子です。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
撮影:すのらび

陸閘のレールも更新されています。また、手前に見えるのは仮上り線の踏切です。仮線ではゴム製踏切ではなくコンクリートブロック式の踏切となります。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
撮影:すのらび

本設橋梁の施工

新たな淀川橋梁の建設工事もすでに始まっています。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
P49橋脚の様子。
阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
P48橋脚の浚渫工事の様子。

高水敷盛土工

高水敷盛土工も進められていました。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
2重締切鋼矢板が写真中央に見えるが、これは工事用斜路工。
撮影:すのらび

4工区(河川中心~淀川左岸)

淀川橋梁の東側半分が含まれる4工区では、新しい淀川橋梁の建設が進められていました。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)
P54橋脚の様子です。

5工区(伝法駅部~大阪難波方面取付部)

伝法駅部から大阪難波方面取付部の区間が含まれる5工区は既設線の北側に沿った敷地に高架橋の建設される「別線方式」で高架化されます。それゆえ、高架橋の建設を始める前に仮線路を設ける必要のある「仮線方式」で高架化される1・2工区に比べると工事着手の時期がずれ込みます。

阪神なんば線・淀川橋梁改築事業(令和2年・夏の様子)

参考文献

国土交通省淀川河川事務所ホームページ「阪神なんば線淀川橋梁改築事業に関する取り組み」内の資料( https://www.kkr.mlit.go.jp/yodogawa/activity/comit/bridge-reconst.html )
阪神電気鉄道株式会社, 西大阪高速鉄道株式会社 編(2012)「阪神なんば線 (西大阪延伸線) 整備事業誌 : 神戸・なんば・奈良、つながる」
近藤政弘・鶴井寿博・岡本一尚・矢崎澄雄(2006)「鉄道盛土における仮土留壁の比較検討」『第41回地盤工学研究発表会(鹿児島)』pp1287-1288
八方隆邦・福田誠一(1994)「市街地における鉄道線路直下地下切替工法と直上高架切替への応用」『土木学会論文集』pp31-34
下木原浩(2003)「阪神電鉄の連続立体化工事」『鉄道と電気技術』pp38-44

 

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電車って難しいですよね。いや、ほんとに。


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