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阪神9000系はまだリニューアルされていないーよくある誤解

車両 By ぐんじょう

阪神電車の9000系は既にリニューアル工事を受けていると誤解している人も少なからずいるようです。実際、Wikipediaにさえ9000系はリニューアル工事がすでに施工されていると記述されていたこともあります。しかし、実際にはリニューアル工事は未だ実施されておらず、既に実施された工事は単なる近鉄乗り入れ改造に過ぎません。

阪神9000系はまだリニューアルされていないーよくある誤解

リニューアル工事とは

リニューアル工事の定義をまず確認しておきましょう。リニューアル工事とは、運行開始から約20年以上経過した車両を対象にし、電子部品の更新をするとともに、その時点で最新の車両の接客設備に準じるように客室内装を更新することです。

ここで注意すべきは車両外観に変更を加えることがリニューアル工事の目的ではないということです。事実、5500系のリノベーション改造についての阪神電車のプレスリリースにはこう書かれてます。

外観も普通用車両の伝統であるブルー系のツートンカラーを踏襲しつつも、塗り分け位置や扉部分の配色を刷新し、お客さまに〝リノベーション車両″ということが明確に分かるようにしています。

阪神電気鉄道株式会社「5500系車両を大幅リニューアル!5月2日(火)から営業運転開始~バリアフリー対応の拡充に加え、列車運行情報の車内配信を開始~

ここではリノベーション(リニューアル)車であることを分かりやすくするために外観を変えていると書かれているわけで、裏を返せば外観を変更していなくてもリノベーション(リニューアル)車の要件は満たしうるということになります。ここからも外観の変更は副次的なものに過ぎないということが分かります。

阪神電車におけるリニューアル工事の本質は、客室内装の更新と電子部品の更新にあるといえるでしょう。

阪神9000系はまだリニューアルされていないーよくある誤解
既にリニューアル工事を施工された8000系電車
阪神9000系はまだリニューアルされていないーよくある誤解
既にリニューアル工事(リノベーション)を施工された5500系

9000系と阪神なんば線

阪神淡路大震災で被災し廃車となった車両の不足分を補うため、1996年に登場したのが9000系電車です。その13年後である2009年には阪神なんば線が開業し、西九条と近鉄難波(現:大阪難波)の両駅間をつなぐことで阪神電車と近鉄電車の相互直通運転が始まりました。

阪神なんば線の開業当初、近鉄との相互直通運転に対応する6両編成の車両は15編成必要になり、そのうち5編成分は既存の9000系列車を改造することでまかなうことになりました。

阪神9000系はまだリニューアルされていないーよくある誤解
相互直通運転に伴い、阪神線内で並ぶ2社の車両

近鉄乗り入れ改造工事

9000系は近鉄乗り入れに伴う改造を2007年度と2008年度に受けました。「阪神なんば線(西大阪延伸線)整備事業誌」によると、9000系に施工された工事の項目は以下のようです。

・ 近鉄線区間用各種装置の搭載
・ 大阪側先頭車の連結解放仕様化
・ 既存機器の変更
・ 種別・行先表示器のLED化とモニタ装置の新設
・ 車体デザインの変更

この改造工事の施工内容からわかることは、接客設備の改良を目的とした客室内の改造は一切なされていないということです。つまり、冒頭であげたリニューアル工事の定義を一切満たしていないということになります。ゆえに、2007年度と2008年度に施工された工事は単なる近鉄乗り入れ改造工事にすぎないのです。

阪神9000系はまだリニューアルされていないーよくある誤解
「大阪側先頭車の連結解放仕様化」に伴い追加装備された電気連結器。連結器の胴受けも復心機構つきのものになっている。

予想される反論

9000系は登場時とは座席表地(モケット)が変わっているからリニューアル工事は既に施工済みでは無いかという反論が予想されます。たしかに8000系のリニューアル工事では、その項目の一つとして座席表地が交換されていたこともあります。しかし、9000系の座席表地が交換されたからといって、リニューアル工事を受けたということにはなりません。

まずは、座席表地の更新が行われていたのは9000系だけだったのかということを考えなければならないでしょう。9000系の座席表地が交換されたのは近鉄乗り入れ改造と同時ではありません。同時期には8000系の未リニューアル車でも座席表地が交換されていました。下の写真は、8000系未リニューアル車の座席表地の交換後の写真です。

阪神8000系 旧モケット
8000系未リニューアル車
撮影:silky_jet
阪神9000系はまだリニューアルされていないーよくある誤解
優先席
撮影:snowlavit

8000系の未リニューアル工事車で座席表地が交換されていたという事例から考えると、座席表地を交換しさえすればリニューアル工事になるという考えには矛盾が生じます。

重要部検査や全般検査時にも車両に細かな変更が加わることは勿論あります。たとえば、直近数年間でも9000系の客室内には吊手の増設がされています。車内設備に細かな変更が加わるたびにリニューアル工事されたということにはならないのです。

なお更に補足しておくと、5500系の本線向けリノベーション車ではリノベーション工事時に座席表地のデザインが変更されていません。このことからも、座席表地の変更というたった一つの要素だけでリニューアル工事かどうかを判別することができないことが分かります。客室内だけで考えても、リニューアル工事は化粧板の更新や床敷物の更新から始まる様々な工事を一度に実施する大規模なものです。

阪神9000系 旧モケット
交換前の9000系の座席表地
撮影:silky_jet

最後に

阪神9000系はたしかに車両のエクステリアデザインが登場後すでに一度変更されています。しかし、外観の変更はあくまでも近鉄乗り入れ改造の一環に過ぎず、まだリニューアル工事は施工されていなのです。ただし、全編成が営業運転開始から既に20年以上経過しており、今後の動向には目を離せないでしょう。

参考文献

・福田裕「阪神電鉄 8000系電車リニューアル工事の概要」『R&m』、2002年8月号 pp.24-28
・阪神電気鉄道株式会社, 西大阪高速鉄道株式会社 編(2012)「阪神なんば線 (西大阪延伸線) 整備事業誌 : 神戸・なんば・奈良、つながる」
・阪神電気鉄道株式会社「5500系車両を大幅リニューアル!5月2日(火)から営業運転開始~バリアフリー対応の拡充に加え、列車運行情報の車内配信を開始~」〈https://www.hanshin.co.jp/company/press/detail/1908〉(参照2020-6-3)


カテゴリー:車両

ぐんじょう

電車って難しいですよね。いや、ほんとに。


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