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阪神5700系全編成側面写真資料集」 を更新しました。

阪神「青胴車」の終焉を見る

車両 By ぐんじょう

武庫川線の車両更新に伴って70年弱に渡り阪神電車の乗客を運び続けた「赤胴車」が先日ついに引退しましたが、数年後には「青胴車」の引退も予定されています。「青胴車」は車体がクリームとマリンブルーの塗り分けになっていることが特徴で、クリームとバーミリオンに塗り分けられている「赤胴車」と対をなす愛称です。「青胴」や「赤胴」はファンの間での愛称にすぎないものですが、阪神電車の社史や広報資料にも記述があるという点においては一線を画します。本記事では「青胴車の終焉」に焦点を当てることとしたいので、「青胴」や「赤胴」についてのより細かい説明は当サイト内の記事や各種の雑誌・書籍で各自確認いただきたいと思います。

普通用車両の塗装変更から約30年にわたって徐々に青胴車が数を減らしていき、ついには引退をしていくまでの流れを本記事では見ていきたいと思います。

塗装変更の兆し

「青胴」のクリーム/マリンブルーの塗り分けは1959~60年に製造された普通用車両5101・5201形以来のもので、先に登場していた急行用車両3301・3501形のクリーム/バーミリオンの塗装に対をなすものでした。

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1980年代から90年代にかけて急行用車両8000系が製造されましたが、この頃には塗装変更の動きが見られるようになり始めます。8000系は阪神初の6両固定編成や電気指令式ブレーキの採用といった面でも多分に新機軸を持つ車両ですが、第二編成から車体が大幅にモデルチェンジされそのスタイルが時代の流れにあわせて大幅に変更されていたということからは目を逸らせません。

8000系登場にあたっては車両前頭部のモックアップが造られ、形状だけでなく塗装も含めて様々なデザインが検討されていた記録が残されています。過去の「はんしんまつり」で写真をご覧になった方も多くいらっしゃるでしょう。8000系登場の頃から車両の塗装変更の検討が始まっていたことがわかります。

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8000系登場前にデザイン検討のため製作されていたモックアップ。様々な塗装が試されていた模様。
「はんしんまつり2015」での公開資料より引用。
撮影:けーてぃー

現在につながる車体の塗り分けは製造途中の8000系1両(#8235)で実施された試験塗装に見られます。こちらも過去の「はんしんまつり」で写真が公開された他、昨今発売の「鉄道ピクトリアル」誌でも掲載がありますが、車体上半分をブルー、下半分をグレーに塗り分けた塗装となっており、さらにホワイトの帯状の塗装が追加されたデザインになっています。

阪神大震災

1995年の阪神大震災により阪神電車では大小様々な被害が生じました。車両の被害も大きく、普通車8両・急行車33両の計41両の廃車が発生しました。

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青木駅西側で脱線した5261 – 5262 + 5263 – 5264。致命的な被害は受けず廃車を免れ、3月に復旧されている、
写真提供:神戸市 (CC BY 2.1 JP)

震災で廃車になった青胴車は5151形2両,5261形4両,5331形2両の計8両で、震災前には72両の青胴車が在籍していたことを考えると廃車車両は当時の普通用車両の10%に上ります。

震災前の普通用車両の在籍状況は以下のようになっていました。

《青胴車》  
5151形 2両
5261形 10両
5311形 4両
5001形 32両
5131形 14両
5331形 10両
72両
  青胴率100%

震災で廃車になった8両分の青胴車を穴埋めするにあたり、「5500系」が新型車両として登場します。

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旧来の老朽化した普通用車両を置き換えるために5500系の設計はかねて進められており、先述した8000系に施されたブルー/グレーの試験塗装もその一環だったのでしょう。もとより5500系は1995年度内に新造される予定ではあったものの、震災廃車による車両の不足を補うために工期が前倒しにされ大地震発生からわずか9ヶ月後に第一編成が竣工しています。

震災後の新型車両として5500系が登場するにあたっては、「震災を乗り越えて新たに出発する」との願いから塗装が普通用車両としては36年ぶりに変更されました。5500系の製造前には従来どおりにクリーム/マリンブルーの塗装とすることも考えられていたようですが、阪神大震災での被災が塗装変更の決め手となったのかもしれません。新たな塗色は「アレグロブルー」と「シルキーグレー」と名前がつけられましたが、「速く、快活に」を意味する「アレグロ」という音楽用語を使うことで「震災の悲しみを乗り越えて元気でありたいという想い」が表されたネーミングになっています。

阪神「青胴車」の終焉を見る
阪神「青胴車」の終焉を見る
5500系の新造にあたって製作されたモックアップ。旧来の「青胴」になっているが、アレグロブルー×シルキーグレーに塗装をされていた時期もある。
「はんしんまつり2015」での公開資料より引用。
撮影:けーてぃー

震災復旧後の普通用車両の在籍状況は以下のとおりです。この時点で、普通用車両全体に占める青胴車の割合(表中の青胴率)は90%になっています。

《青胴車》  
5261形 6両
5311形 4両
5001形 32両
5131形 14両
5331形 8両
小計 64両
《非・青胴車》  
5500系 8両
小計 8両
72両
  青胴率90%

5500系の増備

5500系は震災復旧用として1995年に8両(2編成)が製造された後、1997年から2000年にかけて28両(7編成)が増備され、最終的には36両(9編成)の大所帯になりました。

5500系の増備分に置き換えられた車両は、普通用車両では5261形6両と5311形2両の8両、急行用車両では西大阪線で主に活躍していた旧ラインデリア車の7801-7901形4両と本線で活躍していた3000系12両の16両、計24両になります。

急行用車両の置き換えも5500系の投入によって実施されていますが、これは1998年の直通特急(梅田ー姫路)の運行開始に伴い日中のダイヤが12分間隔から10分間隔に変更されることによって急行用車両の車両運用が効率化された一方で普通用車両の所要編成数が増えたことによります。

5500系の増備が終わった時点(2000年)で、普通用車両全体に占める青胴車の割合は60%になっています。

《青胴車》  
5311形 2両
5001形 32両
5131形 14両
5331形 8両
小計 56両
《非・青胴車》  
5500系 36両
小計 36両
92両
  青胴率60%

5550系の新造

2010年には、経年40年以上となっていた5311形2両を含む5143~5314の1編成(4両)が5550系によって置き換えられました。廃車時点での5143~5314の編成は5311形2両と5131形2両からなる5143-5144+5313-5314の組成になっていましたが、5311形側に行先表示機や設定器が設置されていなかったのに合わせる形で当時行先表示機の設置されていた5131形でも行先看板が使用されていたのが特徴でした。

5143~5314の編成は5311形と5131形からなり経年に10年ほど差のある編成となっていましたが、これは1987年以来の普通列車終日4両化でペアを組んでいた編成(2両)がそれぞれ阪神大震災で廃車になったことから紆余曲折を経てその片割れ同士で編成を組んでいたことによります。

5550系は5143~5314の編成を置き換えるために1編成のみ製造された車両で、5500系の構体構造に当時増備の進められていた1000系の機器を組み合わせることで設計・製作面でもコスト面でも効率化の図られた車両となっています。車体デザインは普通用車両としては先に登場した5500系を踏襲していて、アレグロブルー/シルキーグレーの外部塗色となっています。

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5550系の導入(2010年)に伴い、普通用車両全体に占める青胴車の割合は57%になっています。

《青胴車》  
5001形 32両
5131形 12両
5331形 8両
小計 52両
《非・青胴車》  
5500系 36両
5550系 4両
小計 40両
92両
  青胴率57%

5700系の新造

2015年からは5700系の増備によって青胴車の5001・5131・5331形の置き換えが進められています。

車両の置き換えにあたっては整備部品の入手困難から整備上の不都合を来していた電機子チョッパ制御車の5131・5331形が優先され、より車齢の高い抵抗制御車の5001形に先立っての置き換えが実施されました。

また、武庫川線を走っていた赤胴車の7861ー7961形と7890-7990形の計8両の置き換えにあたっては本線用の普通用車両5500系が2編成(8両)捻出されており、5700系の増備でこの2編成分が補填されたために普通用車両が合計100両に増加しています。

武庫川線への5500系投入時点(2020年)での普通用車両全体に占める青胴車の割合は32%になっています。

《青胴車》  
5001形 32両
小計 32両
《非・青胴車》  
5500系 36両
5550系 4両
5700系 28両
小計 68両
100両
  青胴率32%

5001形は2023年度末までに5700系の増備車両に置き換えられる予定が発表されており、この置き換えが完了した時点で青胴車は姿を消すことになります。

5700系は普通用車両としては初の量産ステンレス車で、先頭車の前頭部を除いては外板が無塗装となり新色「カインドブルー」を使った装飾がなされています。また、2017年には既存の車両である5500系にリノベーション車が登場し、車体の塗装が再び改められ青色系の塗色がアレグロブルーから「ラピスブルー」に変わりました。

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ラピスブルー

5700系と先に登場した急行用車両の1000系はかつて青胴車と赤胴車がそうであったように対をなすデザインとなっていて、この新たなカラーリングは今後の阪神電車を象徴していく存在になるのかもしれません。

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撮影:ぶたきむち

参考

 

  震災前 震災復旧
(1995年)
5500系増備完了
(2000年)
5550系新造
(2010年)
現在
(2020年)
5001形全廃
(2023年度以降)
青胴率 100% 90% 60% 57% 32% 0%
車両数 72両 72両 92両 92両 100両

参考文献

阪神電気鉄道(1985)「阪神電気鉄道八十年史」
電気車研究会「鉄道ピクトリアル」各号
ほか


カテゴリー:車両

ぐんじょう

電車って難しいですよね。いや、ほんとに。


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