今でこそ車体に装飾を施したラッピング電車はさして珍しいものではありませんが、昔、と申しますか昭和の終わり頃までは、電車の車体に装飾を施すことは、路面電車の車体広告等を除いて、あまり一般的ではありませんでした。阪神電車においても同様で、神戸高速鉄道開業時の祝賀列車や併用線廃止時の惜別装飾など、鉄道での大きな出来事の際に見られた程度でした。
唯一、特筆されるのは、1958(昭和33)年の秋、甲子園阪神パークで「甲子園の科学博」開催の折に、宣伝用として881形を全面黄色塗装とした宣伝列車が運行されたことがありました。同様に併用線においても31形(車番不詳)が同様に塗り替えられたそうで、阪神電鉄にとって大変に力を入れた宣伝ぶりだったことが伺えます。
甲子園の科学博号(1/80模型)※側面ロゴは黒文字だったかもしれません…。
しかし時代が平成に変わると、阪神電車においても自主開催やタイアップによるイベント列車や装飾電車を運行するようになり、今では年中何かしらのラッピング列車が走る時代になりました。今回はそうしたラッピング…と呼ぶよりも「装飾電車」と呼ぶべきでしょうか、そんな1990年代から2000年代半ば頃までの事例をご紹介いたします。
■「酒蔵号/酒蔵ライナー」(1991~2006年)
鉄道の集客力向上を目指すイベント列車として、日本酒製造で有名な灘五郷の蔵元とタイアップした貸切列車「酒蔵号」が1991年から運行を開始し、以降、新酒シーズンの恒例イベントとして定着したものです。
運行初回となった1991年春は、当時最新鋭の8000系8233-34編成(いわゆるタイプⅣ)が充当されましたが、ヘッドマーク受金具の無い8000系ということで、前面一杯に横断幕を結わえ付けてヘッドマークとする斬新?な方法が採られましたが、さすがに問題があったのか、翌1992年以降は前面にステッカーを貼付する方式に変更され、併せて先頭Tc車側面にもステッカーが付くようになりました。
8233-34を使用した「酒蔵号」。ヘッドマーク代わりの巨大な横断幕はインパクト抜群。1991年 住吉
ヘッドマークがステッカー方式に変わった「酒蔵号」 8235-36 1992年 西宮-西宮東口
9000系を使用した1999年「初夏の酒蔵号」 9201-02 1999/06/26 尼崎
途中、震災による中断等もありましたが、1998年からは山陽電鉄との相互直通区間が拡大されたことに伴い、山陽電車を使用した「播磨酒蔵ライナー」も運行されるようになり、2006年まで運行されました。
9300系9503-04を使用した「播磨酒蔵ライナー」 2006/02/26 石屋川
■「タイガース号」(1992年~2006年)
グループ最強コンテンツである阪神タイガースの試合観戦がセットになった貸切列車「タイガース号」が1992年から運行開始、タイガースの球団旗を前面に括り付けていました。山陽電鉄との相互直通区間が延伸されると、1999年からは山陽電車を使用した「さんようタイガース号」も運行されまるようになりました。
Tc前面に球団旗を結わえ付けた「タイガース号」 8241-42 1992年 西宮
前面への球団旗掲出の他、Tc側面にステッカーも貼付。9201-02 1998/05/23 尼崎
タイガース号の亜種として、プロ野球シーズン終了後に阪神甲子園球場で開催されたファン感謝デーで運行された「ありがとうタイガースファンのみなさま号」(1999年)、女性向けファンクラブ「と・ら・ら倶楽部」貸切列車(2000~2003年)が運行されたこともあります。
ファン感謝デーに梅田と三宮から計3列車が運行された「ありがとうタイガースファンのみなさま号」 順に8235-8536、8241-42、8233-34 1999/11/23 武庫川、甲子園、武庫川
女性向けファンクラブ「と・ら・ら倶楽部」貸切列車も伝統?の「旗掲出」 8229-30 2003/07/19 尼崎センタープール前
■高校野球の装飾電車(1999、2000年)
春・夏の高校野球大会の宣伝用に、主催新聞社系列の放送局(春:毎日放送、夏:朝日放送)とのタイアップにより開会前~大会期間中に1編成に装飾を施した「センバツ列車(春)」、「熱闘甲子園号(夏)」が、1999年と2000年にそれぞれ運行されました。
センバツ列車 5503-04 1999/03/18 千船
夏の熱闘甲子園号 8247-48 1999/08/05 千船
センバツぷいぷい列車 5505-06 2000/03/24 御影
夏の熱闘甲子園号とその側面装飾 8249-50 2000年8月 野田、2000/08/08 甲子園
■タイガースの装飾電車(2001~2003年)
上述の「タイガース号」とは異なり、プロ野球シーズン中に8000系1編成にタイガースの応援装飾を施したものです。2001、2002年の「NEVER NEVER…」は当時の星野監督が提唱したチームのスローガンでしたが、その効果あってか?2003年と2005年にタイガースはリーグ優勝しましたね。
Dash!! Hanshin Tigers号 8213-18 2001/04/08 甲子園
NEVER NEVER NEVER SURRENDER と側面装飾 8245-46 2002/04/29 大石、2002/04/10 野田
NEVER NEVER NEVER SURRENDER とその側面装飾 8229-30 2003/04/08 尼崎
■ダイヤ改正、高架完成など記念列車
ダイヤ改正や高架化完成など、鉄道事業での大きな出来事の際にも、特別な装飾電車が運行されたことがあります。1993年に完成した尼崎市内連続立体交差事業の竣工時、2001年の西宮市内連続立体交差事業では下り線切り替え(1998年)と上り線切り替え(2001年)の2度に渡り祝賀列車が運行されました。また1998年の阪神梅田~山陽姫路間の直通特急運転開始時にも祝賀号が、2000年のダイヤ改正や2005年の開業百周年でも装飾電車が運行されています。
尼崎市内連続立体交差事業完成祝賀号 8237-38 1993/01/23 出屋敷
直通特急祝賀号 8245-46 1998/02/15 姫島-淀川
西宮立体下り線切り替え祝賀号 8237-38 1998/05/30 西宮
西宮立体竣工祝賀号 9501-02 2001/03/03 今津
2001年ダイヤ改正 9501-02 2001/03/11 尼崎
阪神電車開業100周年 9501-02 2005/04/12 今津
■その他のイベント列車・特別装飾
1990年、阪神電鉄の傍系会社が運営するジャスレストラン「大阪ブルーノート」の開店に伴い、その宣伝用として、5261形5271-74の4両1編成をシアンブルーに塗り替え、側面にロゴマークを貼付した「ブルーノート・トレイン」が運行されました。車内でジャズの生演奏と軽食を提供するイベント列車「JAZZの夕(ゆう)べ号」でデビューの後、普通列車として運行され、翌春の定期検査入場迄の数か月間ではありましたが、沿線での注目を集めました。
ブルーノート・トレインを使用した「ジャズの夕べ号」(引退時) 5271-74 1991年3月 梅田
入庫するブルーノート・トレイン 5271-74 1991/01/09 尼崎(知人提供)
1991年に御影駅主催イベントとして石屋川車庫や教習所の見学を行うイベント列車「Rail School号」が運転されました。
RailSchool号(右端) 8235-36 1991年 石屋川車庫
1993年、尼崎市内連続立体交差事業の完成に伴い、出屋敷駅前に竣工した再開発ビル「出屋敷リベル」で合同結婚式が開催されることになり、その共産として「ウェディングエキスプレス」が運行されました。
ウェディングエキスプレス 8247-48 1993年 淀川
1994年、阪神電鉄が新規事業として新在家にあった「六甲パインモール」内に開業した海鮮レストラン「神戸セブンシーズクラブ」とのタイアップとして運行した貸切列車です。なお六甲パインモールは翌95年の阪神震災で倒壊したため、イベント列車運行もこの一回限りでした。
セブンシーズ号 8245-46 1994年 野田-福島
直通特急運転開始を記念したイベントとして、1998年3月に阪神電鉄・山陽電鉄・ホテル阪神の共催イベントとして、車内を挙式する阪神-山陽直通「ウェディングエキスプレス」が山陽舞子公園~阪神梅田間で運行されました。
ウェディングエキスプレス 8247-48 1998/03/11 淀川
2003年、阪神百貨店の開業70周年を記念して5500系5517-18編成に装飾が施されたもので、タイガースへの応援メッセージ等も描かれました。
阪神百貨店70周年 5517-18 2003/03/31 芦屋
2004年、阪神甲子園球場の開設80周年を記念して5500系5513-14編成に甲子園球場の「ツタ」をイメージした装飾が施され、7月から10月まで運行されました。
甲子園球場80周年記念 5513-14 2004/07/18 御影
<おことわり>
・今回ご紹介の対象としたのは、車体にステッカーを貼る等、何らかの「装飾」を施したものに限定いたしました。「副票のみ掲出」した事例については、改めて別稿にてご紹介することにいたします。
・当方の撮影したポジやデータの保管が杜撰だったため原版を紛失したものがありまして、クリックしても小さいサイズの画像でしかご覧いただけないものが多数あることご容赦ください。